大判例

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大分地方裁判所 平成9年(行ウ)9号 判決 1998年3月23日

大分県大分郡挟間町大字鬼崎九九九番地

原告

神野栄一

右訴訟代理人弁護士

岡村正淳

大分市中島西一丁目一番三二号

被告

大分税務署長 池田隆至

右指定代理人

富岡淳

畑中豊彦

森敏明

瀬名波廣

吉良輝昭

星野光賢

井寺洪太

池田和孝

河口洋範

鈴木吉夫

福浦大丈夫

主文

原告の請求をいずれも棄却する

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成八年二月二六日付けでした原告の平成四年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

第二事実の概要

一  争いのない事実

1  原告は、原告が代表精算人であった有限会社神野組(以下「神野組」という。)が所有する大分市都町三丁目一三四番地及び同番地二所在の建物(以下「本件家屋」という。)を居住の用に供し、かつその敷地である同所一三四番、同番二 の各土地(以下「本件土地」という。)を所有していた。

2  原告は、平成四年五月一九日、有限会社大都会外四名に対し、本件土地を代金七三〇〇万円で譲渡し、右代金のうち、神野組が借地権価格として三六五〇万円を、原告が底地の対価として三六五〇(以下「本件土地譲渡代金」という。)を、それぞれ取得した。

また、原告は、右同日、神野組が大都会外四名に対し、本件家屋を代金二七〇〇万円で譲渡したため、本件家屋を神野組に明け渡したことに伴い、神野組から二九七万六五四九円(以下「本件家屋明渡受領金」という。)を取得した。

3  原告は、平成四年分所得税について、本件土地譲渡代金及び本件家屋明渡受領金が、いずれも分離長期譲渡所得に当たるものとして、租税特別措置法(平成五年法律第一〇号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三五条一項一号所定の居住用財産の譲渡所得の特別控除の額を控除して、別紙一「課税の経緯一覧表」記載のとおり確定申告をし、その後、措置法三一条の三第一項所定の居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に従い、同表記載のとおり更正の請求をしたところ、被告は、原告に対し、同表記載のとおり、更正をすべき理由がない旨の通知をし、さらに、別紙一、二記載のとおり、総所得金額を一三六万〇五七四円、分離長期譲渡所得金額を三二五二万五六八八円、納付すべき税額を九七八万六一〇〇円と更正する処分(以下「本件更正処分」という。)をするとともに、過少申告加算税一一五万五〇〇〇円の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

4  原告は、右各処分を不服として、別紙一記載のとおり、被告に異議申立てをしたが、棄却の決定を受けたので、さらに国税不服審判所長に審査請求をしたが、棄却の裁決を受けた。

二  争点

1  本件土地譲渡による代金につき、措置法三五条、三一条の三(以下「本件特別控除」、「本件特例」という。)が適用されるか。

(一) 原告の主張

本件家屋は、登記名義上は神野組の所有であったが、神野組は、その出資口数の六〇パーセントを原告が、四〇パーセントを原告とともに本件家屋に居住する原告の実母神野カズコが保有し、原告が全面的に支配する同族会社であったうえ、本件家屋の建築、維持、管理及び処分は、全て原告により、その個人財産と同様になされてきたものであり、実質的に原告が所有するものであった。

また、家屋がその敷地の用に供されている土地とともに譲渡された場合に、当該家屋の所有者とその敷地の所有者とが親族関係にあり、これらの者が同居し、生計を一にしているときには、本件特別控除、本件特例が適用されるという通達(租税特別措置法通達三一の三‐一九、三五‐四。以下「本件通達」という。)があるところ、右事実からすると、原告と神野組との間には、単なる親族や生計の同一という以上に緊密な関係があり、また、ともに本件家屋を居住の用に供していたというべきである。

したがって、本件家屋と本件土地は、いずれも実質的に原告が所有し、あるいは本件通達における関係者が所有していたものとして、本件特別控除、本件特例が適用されるべきである。

(二) 被告の主張

本件特別控除、本件特例は、いずれも居住用財産を譲渡した者の所得税の軽減を図ることにより、居住用財産の買換えが円滑に行われるよう、税制面から援助する趣旨で設けられた制度であり、個人が所有する家屋で、かつ、その個人が居住の用に供している家屋を譲渡し、又はその家屋とともにその敷地の用に供されている土地等を譲渡した場合の規定であって、家屋の所有者とその敷地の所有者には、原則として適用されることはない。

ただし、当該家屋がその敷地の用に供されている土地等とともに譲渡された場合に、当該家屋の所有者とその敷地の所有者とが、親族関係にあり、かつ、これらの者がその家屋に同居し、生計を一にしているときは、当該家屋とその敷地を一の生活共同体の居住用財産とみて特例制度を運用することが実情に即していることから、土地等の所有者にも、本件特別控除、本件特例を適用することができるとされている。(本件通達)。

しかしながら、本件家屋の所有者である神野組は、これに居住しているものではないし、本件土地の所有者である原告と神野組とは親族等でもないことから、本件特別控除、本件特例は適用の余地がない。

2  本件家屋明渡受領金について、分離長期譲渡所得に該当するものとして、本件特例が適用されるか。

(一) 原告の主張

本件家屋明渡受領金は、原告が居住の用に供していた本件家屋に対する借家権の対価であり、右借家権は措置法三一条三の第一項の居住用財産に該当する。したがって、本件家屋明渡受領金については、本件特例が適用されるべきである。

仮に原告が本件家屋の借家権を有しないとしても、前記のとおり原告は本件家屋の実質的な所有権を有しており、かつその敷地の所有者であり、また本件家屋が原告らの居住の用に供するために建築された以上、本件家屋の売却代金のうち、原告の使用権に相当する価格が本件家屋明渡受領金として原告に帰属したものであり、本件家屋の譲渡所得として本件特例が適用されるべきである。

(二) 被告の主張

本件特例の対象とされる居住用財産は、個人がその居住の用に供している家屋及び当該家屋の敷地の用に供されている土地又は土地の上に存する権利などどされており、借家権はこれに含まれず、仮に本件明渡受領金が原告の借家権の対価であるとしても、右借家権は本件特例の対象とされる居住用財産に該当しない。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件土地の譲渡による原告の譲渡所得に、本件特別控除、本件特例が適用されるか。)について

1  本件特別控除及び本件特例は、個人が自ら居住の用に供している家屋を譲渡したり、当該家屋とともにその敷地等を譲渡するような場合には、これに代替する居住用財産を取得するのが通常であるなど、一般の資金の譲渡に比して特殊な事情があり、担税力も高くない事例が多いこと等を考慮し、当該家屋などの譲渡所得の帰属者である当該個人の税負担を軽減する趣旨で設けられた特例である。したがって、本件特別控除、本件特例の適用のための要件としては、当該個人が当該家屋を、譲渡所得の帰属者の立場において、すなわちその所有者として居住の用に供していたことが必要であり(最高裁昭和六一年(行ツ)第七号平成元年三月二八日第三小法廷判決参照)、当該家屋の所有者とその敷地の用に供されている土地等の所有者等が異なる場合には、当該土地等の所有者等には、本件特別控除、本件特例は適用されないというべきである。

前記事実によれば、原告は本件家屋を所有していなかったのであるから、たとえその居住の用に供していた本件家屋を神野組に明け渡すとともに、その敷地である本件土地を譲渡しても、右譲渡所得について本件特別控除、本件特例の適用を受けることはできないというべきである。

2  原告は、本件家屋は実質的に原告が所有していたものであり、あるいは原告と神野組との間には、本件通達に定める要件以上に緊密な関係があるから、本件特別控除、本件特例が適用されるべきであると主張する。

確かに、本件通達は、居住用家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合において、(1) 譲渡敷地は、譲渡家屋とともに譲渡されているものであること、(2) 譲渡家屋の所有者と譲渡敷地の所有者とが親族関係を有し、かつ、生計を一にしていること、(3) 譲渡家屋は、当該家屋の所有者が譲渡敷地の所有者とともにその居住の用に供している家屋であることのすべての要件を充たすときは、当該家屋とその敷地は一の生活共同体の居住用財産とみて特例制度を運用することが実情に即していると考えられることから、他の要件も充足すれば、本件特別控除、本件特例の適用を認めることとしている(乙第二号証)

しかし、本件通達は、前記の各要件を充たす場合には、それらの適用を認めるのが実情に即するものとして、特例のさらに例外措置を定めたものである。そして、租税法律主義に照らし、租税法の適用はみだりに拡張適用すべきものではないから、本件特別控除、本件特例及び本件通達の解釈、運用についても、一義的明確かつ厳格になされるべきであり、個別具体的事情を考慮してこれらを徒らに拡張適用することは、租税公平主義に反し、課税の法的安定性、予測可能性を損なうものであって妥当でない。したがって、本件においては、本件家屋の所有者である神野組はこれに居住しているものではなく、また神野組と原告との間には親族関係等もないから、本件通達の要件を充たすとはいえず、本件特別控除、本件各特例を適用することはできないというべきである。

また、原告は、原告と神野組は同一体であり、本件の課税に当たっては、法人格否認の法理が適用されると主張するようであるが、右法理は法人の取引の相手方や不法行為の被害者等の利益保護のために適用されるべきものであり、本件のように課税上の特別措置を受けようとうする個人の利益を保護するための法理ではないから、かかる主張は採用することができない。

二  争点2(本件家屋明渡受領金について、分離長期譲渡所得に該当するものとして、本件特例が適用されるか。)について

原告は、本件家屋明渡受領金は、原告の本件家屋に対する借家権の対価であり、右借家権は措置法三一条の三第一項の居住用財産に該当すると主張する。しかし、本件特例が適用される居住用財産は、当該個人が居住の用に供している家屋、当該家屋及びその敷地の用に供されている土地又は土地の上に存する権利などに限られるのは規定の文言上明らかであって、借家権すなわち建物の借家権はこれに含まれないというべきである。

また原告は、本件家屋の借家権を有していなかったとしても、その実質的な所有権を有し、また本件家屋は原告らの居住の用に供するために建築され、原告は本件家屋について借家権に比すべき権利を有するところから、本件家屋の売却代金のうち、原告の使用権に相当する価格である本件家屋明渡受領金については、本件家屋の譲渡所得として本件特例が適用されるべきであると主張する。しかし、前記のとおり、租税法の規定は厳格に解釈すべきであるから、原告の右主張は妥当でない。

三  本件更正処分及び本件賦課決定処分の適法性について

争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、本件家屋は原告及びその家族の居住の用に供されてはいたが、神野組との間ではその貸借に伴う権利金、家賃等の授受はなされず、原告は本件家屋の借家権を有していなかったこと、本件家屋明渡受領金は、原告が本件家屋から立ち退いたことによって交付されたもので、移転補償の性格を有する立退料であることが認められ、これは営利を目的とする継続的行為から生じたものではなく、一時的な性格のもので、かつ労務その他の役務の対価としての性質も有しないことから、所得税法三四条一項所定の一時所得に該当するというべきである。

そして、争いのない事実、甲第一号及び弁論の全趣旨によれば、別紙二記載のとおり、原告の平成四年分の総所得金額は給与所得一二万二三〇〇円、一時所得一二三万八二七四円(特別控除五〇万円(所得税法三四条二項、三項)を控除した残額の二分の一に相当する金額(同法二二条二項二号))の合計一三六万〇五七四円、分離長期譲渡所得金額は三二五二万五六八八円(本件土地譲渡代金三六五〇万円から取得費一八二万五〇〇〇円(いずれも国税通則法一一八条一項所定の端数切捨後の金額)であること、納付すべき税額は九八〇万九七〇〇円となり、本件更正処分に係る納付すべき税額は右税額の範囲内であることが認められるから、本件更正処分は適法である。

また、右認定したところによれば、本件では国税通則法六五条四項にいう正当の理由がある場合に該当しないから、原告の納付すべき過少申告加算税の額は、別紙二記載のとおり、本件更正処分により新たに納付すべき税額八二四万円(国税通則法一一八条三項所定の端数切捨後の金額)に一〇〇分の一〇を乗じて算出した金額及び右納付すべき税額のうちの期限内申告税額超過相当分六六八万円(右端数切捨後の金額)に一〇〇分の五を乗じて算出した金額の合計額に相当する一一五万八〇〇〇円となり、本件賦課決定処分に係る納付すべき税額も右税額の範囲内であるから、本件賦課決定処分も適法である。

四  結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菊地徹 裁判官 山口信恭 裁判官 大西達夫)

別紙一

課税の経緯一覧表

<省略>

別紙二

<省略>

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